添付録 未完成ショートショート 2 執筆者:☆PICO★

副作用

早春の朝。朝というよりは、まだ夜なのかもしれない。森の木々の上には、と
がった月が蒼白く輝いており、小鳥たちもまだ目覚めていなかった。
その森で一番大きな木の下に、P博士の研究所があった。博士はC国の秘密情
報部の一員だった。研究所の前には1台の車が、エンジンをかけたまま止まっ
ていた。
「この赤い薬は、国家の秘密を守るため、特別に開発した薬だ。この薬を飲め
ば、あらゆる苦痛を快感にかえることができる。万が一、おまえが敵にとらえ
られて拷問されるようなことがあっても、また運悪く自白薬を打たれたとして
も、秘密を漏らしてしまうことはなくなる、スパイ専用の特別な薬なのだ。」
P博士は誇らしげに赤い薬の入った小ビンをC国のスパイ157号に渡した。
車はあっという間にP博士の前から姿を消した。
157号はC国きっての優秀なスパイで、敵国から入手する貴重な情報の多く
は、157号のスパイ活動の成果だった。ところが、ある日、157号は小さ
なミスを犯し、敵国に捕らえられてしまった。彼は失敗を悔やんだが、いまさ
らどうにもならないので、例の赤い薬を飲んで拷問に備えた。
翌日、157号は閉じこめられていた地下牢から別室に移され、思った通り自
白薬を注射された。そして、敵の情報部員による尋問が始まった。秘密を探り
出そうと自白を強要されたがP博士の薬の力で秘密は完全に守られた。
「や?おかしいぞ。こいつには自白薬が効かないのか?」
自白薬はダメということで、暴力が使われ、食物が奪われ、あらゆる拷問が続
けられた。それでも、157号は口を割らなかった。祖国のためだ。絶対に
しゃべるものか!
「ヤツを吐かせる方法はないのか?」
敵の情報部員はあせり始めた。
「このままでは、ヤツは衰弱して死んでしまう。ヤツに死なれては苦労がだい
なしだ。死んでしまう前に何としても吐かせねば。まずは、傷口の手当をして
やれ。」
医者が呼び出され、傷ついた157号の手当が行われた。そして・・
157号の抵抗は、ここまでだった。
衰弱のために死んでしまったのではない。手術が失敗したわけでもない。15
7号は傷口を縫い合わせられるのがくすぐったくてたまらなかったのだ。敵の
情報部は素早くそのことを察知した。
あとは詳しく記すこともありますまい。157号が、敵の情報部員に全身をく
すぐられ、笑い転げながらC国の機密をしゃべってしまうのに何分もかからな
かったのだから・・

1998/1/8

前回 インデックス 次回 感想はこちらへ ホーム