| 添付録 | 死にゆく者を見つめる目 | 9 | 執筆者:すや |
私は先生に軽く会釈をして、その部屋からの退出を合図した。
部屋から出ると、外で待ちくたびれていた親戚が、早速様子を尋ねてきた。私は咄嗟
に、
「お蔭様で、無事手術は終わりました。先生によると、胃潰瘍だったそうで、胃の3
分の2を切り取りましたが、すぐによくなるそうです。色々ご心配をおかけしまし
た。」
そう言って、とりあえず安心させ、帰宅を促した。
私は母と相談し、今晩は付添うことにした。母は勿論そのつもりだ。
父が病室へ帰るまでの間、母と交代で遅い昼食をとることにした。私は病院近くの食
堂へ出かけ、お好み焼きを食べた。食欲は旺盛。こんな時、ドラマでは食欲不振にな
るんだよなあ、と、埒も無いことを考えたが、大きな衝撃を受けたときは、かえって
こんなものかもしれない、とも思った。人間は、大きな傷を受けたとき、暫くは痛み
を感じないと言うではないか。食事が終わって、病院に帰る道すがら、市電の走る広
い道路の脇に出て、しゃがみこんでぼんやりとタバコを吸った。街は黄昏、往来する
電車の乗客は何を考えながら、椅子に腰掛け、あるいは吊革にもたれているのだろう
か、そんなことが妙に気になった。自分一人が、この街の中で取り残されているよう
な感覚だった。そんな私の姿をいぶかしげに眺めるおばさんの視線に気付き、2本目
のタバコを吸い終わったことろで、よっこらしょと腰を上げ病院に向かった。
1998/10/29
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